やはりナラティブはゲーム体験を最高にする-デトロイトビカムヒューマン


アドベントカレンダー

こんにちは、fymartymです。今年触ったゲーム Advent Calendar 2019の17日目の日記です。

先日友人の結婚式/披露宴がありました。ありがたいことに招待状を頂いたので参加させていただきました。行く前は、もうそんな年齢……みたいな悲しみで辛くなるかなと思ったのですが、普通に「よい式だった」というちゃんとした心の動きが観測されました。披露宴終盤の、新婦の両親(家族)への手紙で泣いたんですけど、泣きつつ、このジェンダーロール(御礼挨拶は新郎、手紙朗読は新婦)はなんだろうなとちょっと思ったりもしました。fymartymは割と保守的だと自分では思っているのですが最近はこういうことを考え込むことが多くなった気がします。単純に自分が煩わしく思うことをやらなければならないのが性別起因だと嫌なだけなんだと思いますが。こういうことに触れるといやまずお前結婚できないだろwみたいな話になるのでどうでもいいし、その通りなんですけど。

開けろ! デトロイト市警だ!

PSNで12/6にDetroit: become humanを買いました。しばらくしてからプレイしはじめて、2,3日くらいで一周目をクリアしました。計測していないしデータをちゃんとみていないのでよくわからないけどプレイ時間は30-40hくらいじゃないかと思います。

デトロイトはジャンルとしてはADVで、ひたすらストーリーを追っていくゲームです。特徴的なのは、そのストーリー進行に対してプレイヤーの意思をかなり反映させることができるというところ。例えば私はサガシリーズが大好きで、メインシナリオがありつつも自分の好きなように旅ができるあの「フリーシナリオシステム」をナラティブだと思っているのですが、デトロイトではそれとはまた違う形のナラティブを体験することができました。

ストーリーのさなかで、操作キャラクターの言動をプレイヤーが選択します。それによって物語はいろいろなルートに分岐していき、その行動によって高感度の上下はもちろん、誰かが死んだり助かったり、ゲーム内の世論が変動したり、最終的に行きつくゴールも様々なものがあります。

そんなのさあ……感情移入するに決まってるやんけ!!

以下ネタバレを含む所感です。

デトロイト所感

あらすじ

ものすごい高機能のアンドロイドが人間のサポートをしている2038年のアメリカが舞台。アンドロイドは人間そのものの容姿をもっていて人間のような言動をするし、違うのは「用途のために最適化された合理的なAIで稼働していること」、「アンドロイドとわかるように額にLEDランプがついていること」くらい。人々の生活を助け、経済の発展になくてはならない存在のようなアンドロイドだが、人間から雇用を奪っているというような社会問題があり、一部の人間からはかなり忌み嫌われている様子がうかがえる(そもそもそれなら人間働かなくてよくね?)。

そんな中、アンドロイドによる犯罪がデトロイトを中心に増発する。合理的に任務を遂行するために作られているアンドロイドが犯罪を起こすことは通常考えられないが、そのシステムがおかしくなったアンドロイドが増えていて、それらは「変異体」とよばれている。

自分ならどうするか、より、このキャラならどうするか

デトロイトでの操作キャラは3体:

彼らを操作するのにあたって、本当にどんな行動をさせることもできるので、「プレイヤーの思想」を反映させるかたちになると思うのだが、やはりこの三者に対して抱いた第一印象で行動の指針を決めたくなってしまう。自分だったらこうする、じゃなくて、彼らならこうする、という意識で。進めるうちに嬉しいことが起きたりひどい仕打ちを受けたりするたびに、こんなことが起きたから彼はこういう気持ちになったに違いない……とさらなる感情移入の波がやってくる。

細かい表情の変わり方とか、それぞれのキャラクターの一挙手一投足が没入感を高める理由だったと思う。逆に没入感を阻害したのは、序盤のコナーが選択肢によってテンションの乱高下が激しくて情緒がぶっ壊れてるように感じてしまうところと、時折出てくるQTE。QTEとは何かというと、クイックタイムイベントの略で、画面上に現れる時限でのコマンド入力指示をこなしていくというプレイヤーの反射神経やスキルの問われるアクション操作のことだ。デトロイトでは、主に鑑賞しているだけのADVのイベントシーンの中にこのコマンド入力アクションが挟まれることがある。ゲーム中では襲い掛かられたりすることがあるのでそれへの反撃など。QTEがなぜ没入感を阻害するかというと、自分のスキルがゲーム進行に影響を与えてしまうからである。要するに、自分の操作がへたくそなせいで、コナーが死んでしまうとか。多少ケガするくらいにおさまればリアルな格闘シーンだね~で済むのだが、「コナーはここでこいつを斃して先に行くんだ! うおおー!!」くらいの気持ちでいるときにぶち殺されたりするとえっあっ……となる。デトロイトをプレイしていて、自分の中のコナーは最強なのに、プレイヤーである自分の弱さにゲーム内のコナーが引っ張られてしまうのは本意でない。いや、それがゲームでしょ? という話ではあるし、それはそれで面白みもあるのだろうけれど、そのゲーム性が私から没入感を奪っているのは確かだ。ちなみにゲーム内で何度か出てくるQTEは結構シビアな難度になっていると思うのだが、ゲーム開始時にQTE機能のON/OFFは選択できて、カジュアルモードにすればこれに気を揉むことはないようだ。

デトロイトの三主人公ではそれぞれ大きな決断を迫られる場面がある。1周目をクリアしたところ解放されたアンケート機能では、そのうちの「どの場面が一番悩んだか?」というような設問があった。それぞれ、以下の場面だ:

迷いはない。私ではなく「彼ら」の選択だから

正直この3つはどれも悩むまでもないことだった。

私の中のコナーは完璧なアンドロイドで、変異体とは無縁の存在。だからクロエを撃つことを躊躇しなかった。それで事件解決の糸口がつかめるのなら、その方が優先されるべきことだから。それにアンドロイドはそのメモリを引き継いで別の機体にリストアすることができる。人間とは違う永続的な命があるのだから、ここでクロエを撃っても機体が壊れるだけ。

マーカスは幸せなアンドロイドだった。その幸せを人間の理不尽によって蹂躙され、奪われてしまった。だけどその穏やかな日々はとてもまぶしくて忘れられない。主人のカールが命じた忍耐を貫くため、マーカスは和平の道を選びました。

カーラがアリスを受け入れるか突き放すかの選択肢はかなりの終盤で出てくる。アリスを守ると決めた旅の始まりから、アリスが何者であろうとも家族であることには変わりがない。だからここで突き放す選択はありえなかった。どちらかというとアリスがアンドロイドだったというそのこと自体が驚きなんだが。伏線はあったらしいけど……。

彼らに寄り添った選択だから思い入れもひとしお

選択によって無数に分岐するナラティブなゲームだから、何度も繰り返しプレイしたくなる。なるけど、やっぱりじっくり彼らに感情移入して丁寧に選択した1周目のプレイの思い入れが強い。最終的に完璧なアンドロイドのコナーがマーカスの焼死体を確認して「任務完了」となるEDでした。

コナーは2回機体が壊れ、クリア時点ではMk3でした。1度目の死は、カーラを追跡中にQTEをミスって大破。2度目の死は、マーカスが電波ジャックした放送局の捜査中、キッチンにいる変異体に襲われてこれもQTEミスって大破。相棒の名前を呼んだのに全然助けに来てくれなかったのは友好度が足りなかったのか? 最初は相棒ハンクにできるだけ好かれようと思ったのですが(捜査を進めるのに仲が悪いと非効率的なので)、合理的な選択をすると好感度が下がっていく……。いい年したおっさんのくせになんなんだこいつ。目の前でクロエを即ぶち壊したことが原因なのかなんなのか、ハンクは自宅で自殺してしまいました。ハンクの死は少し堪えましたが、その後は1人になったことで身軽になり、より軽妙に捜査を進めていきます。最後にマーカス率いるアンドロイドたちの収容所解放デモでビル屋上からスナイプしようとするところ、理不尽な人間様に邪魔されます。コナーは自身が捜査のアンドロイドでありあなたたち(人間)の味方であると伝えるが、「アンドロイドは全員収容所行き」と言われ、相いれないことを理解する。邪魔されては困るのでここでバトルQTEとなり、QTE成功の末彼らを殺してしまいます。邪魔はさせないと言ったでしょ、と冷徹なコナー。これにはちょっと動揺しました。アンドロイドの変異体とそのリーダーの排除が悲願であるとはいえ、その過程で人間を殺してしまうのは本末転倒なのでは?

マーカスはカールの言いつけを守って無抵抗を貫いたがために、カールの死を招き、そのうえその無実の罪を着せられることになった。そのやるせなさや怒りから何度か人間を殺したりしたけど、基本的には穏やかに過ごした。苦しい局面やアンドロイドたちが傷ついている場面を見るたび、カールとの幸せな日々が思い出された。彼はずっと人間と共存していた。アンドロイドとして理想的な「生き方」をしていた。濡れ衣で廃棄させられたり、惨い目に遭う同胞を見てもなお、カールとの美しい日々は、カールがくれたあたたかい言葉は褪せない。デモでは無抵抗を貫いて世論(人間からアンドロイドへの好感度?)を上昇させまくったのち、神々しく焼身自殺して伝説になった。

カーラ編で一番悩んだのは、アリスを受け入れるかどうかよりも素寒貧で雨降る見知らぬ夜の街に放り出されたときだと思う。犯罪行為でもしなければ生き延びるのが難しいし、汚いねぐらを確保しようとするとアリスがぐずるのだ。倫理もアリスも大事にしたいカーラは、本当にどうしたらいいか悩んだ。結局コンビニで金を盗み、コインランドリーで服を盗み、モーテルに泊まったが。あとはズラトコの館とローズの家が本当につらくて、三主人公のなかで一番しんどいルートがカーラ編だと思う。ローズ邸でうまくやれずにルーサー(ズラトコの館で仲間になったでかいアンドロイド)が死んでしまい、そこからはアリスと2人で旅をはじめる。なんとかアンドロイドの楽園「ジェリコ」にたどり着くけれども、脱出に際して死んだふりを徹底できずに人間に殺されてしまった。プレイヤーとしても死んだふりが一番だろ、とは思ったのだけど、カーラの気持ちを考えるとアリスをかばうために動かずにはいられなかった……ずっと一緒の約束は果たせたけれど。

デトロイトのナラティブは面白いけど大変

ということで感情移入で一人大盛り上がりのできるいいゲームです。あと、人間嫌いが加速するゲームです。

で、「何度も繰り返し遊んで新たな発見がある」っていうのもナラティブの良さだとは思うんですけど、同時に弱点でもあるなと思いました。だって、もう私の中で彼らの選択は、物語は、1周目の内容が完璧だから。いろいろなルートを見たい欲求はあるけれど、どれもそれを上回ることはできないだろうなと思う。私の中のコナーは絶対に変異したりしないし、マーカスは平和的解決の道を選ぶだろう。カーラは……カーラはもう少し私がうまく操作して、ルーサーを死なせないようにしたいけれど(でもカーラ編鬱展開が多すぎて厳しい)。

あと、イベントシーンや探索が全然スキップできないのでその辺もつらいですね。プレイ時の選択によって表情が少しずつ代わったりするらしいけど……。マーカスがカールのお世話するところは何度見ても幸せだけど、カーラ編の冒頭~序盤は何度見ても鬱だ。