フォードVSフェラーリを観た


先日スターウォーズを観た時に予告で流れていたのが面白そうだったので観た。そうとは感じなかったけれども、エンドロール後に退場する際、他の客から「長かったね。2時間50分くらいだったかな」との声を聞いたので、結構長かったらしい。実際ググると153分とのこと。

米国の自動車メーカーであるフォードがイタリアのフェラーリをル・マンで負かそう、という挑戦の話。振り返ってみると「長かったね」の感想に頷けるほど確かにヒューマンドラマのパートが長くて、観てる最中に「思ったよりクルマのシーンがないじゃん」と思ったりした。でもクライマックスのル・マンのシーンはその印象を覆すが如くの怒涛の演出で、ああどうなってしまうんだよとハラハラしたし、よくわからないながらも華麗なドライビングテクニックに魅せられた。ヒューマンドラマのパートもよくできていたし、退屈なシーンはひとつもなかったと思います。

ただ映画のタイトルから連想するような内容ではなかった。どちらかというとフォードVSフォードという感じで、一生懸命仕事を全うしようとレースカーを作り上げるエンジニアたちと、ただ会社の名声と体裁のことしか考えていない上層部のバチバチが目立っていた。天才的なエンジニア・ドライバーであるマイルズを「扱いにくい」として利用するだけしようとする副社長に「この野郎!」みたいな腹立たしさが止まらなかった。会社で偉くなるというのは、やなやつになるということなんだな。肝心のフェラーリ陣営は最終的にはちょっと小物っぽい感じに。でもバンディーニはなかなかかっこよかった。

作中気になったのは、マイルズがエンジニアとしてもドライバーとしても優秀というところ。このタイトルは実話に基づくわけなので実際にそうだったのでしょうが、複数の能力を超人的に発揮しているってすごい。戦後の話なので、その時分には大体の人がメカニックでありドライバーを兼ねていたんだろうか? 確かに、「運転するからこそ仕組みがわかる」、「仕組みがわかるからこそ運転できる」というのは頷ける話だけれど、今だったらきっと分業しているんじゃないかと思うのだが。

通常、生活の中で見かけるクルマについてはもちろん、レースのこともまったく興味のなかった私ですが、人々がこうしてクルマやレースに熱狂するのか、というのがなんとなく伝わる終わり方でした。終わり方はその部分を単体でみるとよくわからないポエミーな独白ともとれるが、そこに(なんとなくだけど)感情移入ができるくらい、ラストに至るまでに辿ってきた物語がしっかりしていたと感じる。

この映画、とにかくマイルズがすごかった。でも、映画を観る前のふれこみとしては「マット・デイモン主演の映画」なんだよな。マットデイモン演じるシェルビーももちろん主役ではあるんだが、間違いなくマイルズがこの映画の主人公だと思う。シェルビーのドライビングシーンでは、フォードの社長、リー・アイアコッカを乗せて爆走するところがなかなか痛快でよかったけれども……。けど一番胸が熱くなったのは、マイルズがル・マンのレース終盤に「お前らどこだ?」と呟くシーン。完璧なラップタイムで新記録を叩き出してきたマイルズが、レーサーとしての欲求より「体裁のため」を優先して減速していく。やわらかい表情も印象深かったですね。ああ、副社長やっぱ許せねぇ!